人生悲喜こもごも

演劇、哲学、うつ、人間関係など、日々感じたり考えたことを書きます。

世阿弥が教える役者の究極の心構え

「稽古は強かれ、情識(じょうしき)はなかれ。」

 

これは室町時代の能の大成者、世阿弥の著作『風姿花伝』の中に出てくる一節です。ここでは役者の心構えを記しているのですね。

 

「稽古(勉強)はうんとしなさい、でも、自惚れてはいけないよ」という意味です。

 

稽古をがんばってやり続ければ、舞台でいい評価をもらえるときもあるかもしれないけど、そこで、おれはすごいんだとか、あいつより上だと自惚れてしまったら、それでおしまいだというのです。なぜなら自惚れると必ず稽古が甘くなって、演技の質が落ちてしまうからなのですね。だから評判がでても、決して自惚れず謙虚な姿勢を堅持しつつ、稽古に励み続けなさい、というのですね。

 

これは、演技の道だけでなく、あらゆる芸事や、自分の職業的なキャリアについても同様に言えることだなあとおもいます。

 

どんなことであれ上達しようとしたらたくさん勉強しなければならないのは言うまでもないことですが、ぼくたちは、ちょっとでも結果が出て、例えばいい大学入った、国家試験に受かった、○○賞もらった、とか結果がでると、ついついそれにあぐらをかいてしまいます。そこで努力をやめてしまうのですよね。

 

ぼくが一年浪人したときに通っていた予備校の英語教師が、君たちは大学受験した時が、人生で一番英語力が高い、大学入った後はどんどん落ちていくんだ、と言っていたのをおもいだします。

 

どんなことでも努力し続けなければ、更に上達することはできないし、現状維持もできないのが現実。そして、もっともそれを邪魔するものは、自惚れというわけです。

 

世阿弥の金言は、演技道のみならず、最終的には、人間道にまで通じているところにその古典としての価値があるのだとおもいます。

 

しかし、演劇やっているものとしては、この言葉聞かされると、ほんと耳が痛くて、この先読み続けるのが心理的にとてもむずかしいです。ほんとお師匠さんに説教されているように感じます。そしてぼくの演劇の師匠は、世阿弥の大ファンなのです。